特別受益と寄与分は、相続の場面で、相続人同士の不公平さを調整するための制度です。
相続開始前に、既に特定の相続人が財産の一部をもらっていたときや、被相続人の財産増加に特別の貢献をした相続人がいたときに、そういった事情を勘案したうえで財産を分割します。
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特別受益とは
個人の財産は、当然、自分で使い方を自由に決定できます。とすると、被相続人が生きているときに、自分の財産を自分が好きな人に譲るのも自由です。しかし、もしも多額の財産を、特定の相続人が受け取っていた場合、被相続人が亡くなった後、単純に残りの財産を法定相続分で分割すると、明らかに相続人間で不公平が生じます。
そこで、この不公平を調整するために、「特別受益」というものが設けられています。つまり、被相続人から生前に、財産を受け取っていた相続人がいた場合、その取得した財産も相続財産の一部と考えるわけです。被相続人が受け取った財産が特別受益と判定されれば、それも相続した財産とみなされて、それを元に法定相続分で分割していくことになります。このことを特に「特別受益の持ち戻し」と呼んでいます。
特別受益が認められるケース
このように、特別受益は、相続人の間の不公平を調整するための制度です。しかしながら、いつでもどこでも認められるわけではありません。つまり、被相続人から生前に財産を譲り受けたという事実だけで、全てが特別受益とは判定されません。
民法では、以下の3つのケースに該当する場合に、特別受益とみなしています。
遺贈を受けた者
遺贈とは、遺言によって財産が与えられることです。この遺贈は、常に特別受益と認められます。
結婚、もしくは、養子縁組のために贈与を受けた者
結婚の際の持参金や、嫁入り道具としての支度金を譲り受けた場合です。基本的に、子が独立して生計を立てるようになると、その後に得た財産は特別受益と認められるようになっています。
ただし、結納金や挙式にかかる費用は、特別受益とは考えられません。
生計の資本として贈与を受けた者
生計の資本とみなされると、特別受益と判定されます。たとえば、子どもが親から扶助として、高校に通うお金を出してもらうようなときは、特別受益とは考えられないわけです。そうではなくて、たとえば家を建てるときの土地を贈与してもらったり、それこそお金を出してもらって家を建てたようなときに、生計の資本を得たものとして、特別受益と判断されることになります。
寄与分とは
相続人のなかで、特に被相続人の財産を増加したり、維持することに貢献をした人がいた場合、その貢献度に応じて相続分を多くしてあげよう、というのが寄与分の趣旨になっています。他の相続人よりも、多くの時間と大きなエネルギーを持って被相続人の財産増加に寄与したにも関わらず、いざ相続の場面で、他の相続人と同じ相続分だったら、客観的に見ても割に合いません。そういった事情に即した不公平を調整する制度が、この項目で紹介する「寄与分」です。
特によくある場面が、被相続人が個人商店を営んでいるときです。兄弟が3人いて、真ん中の弟だけが店を手伝って、大きな労力を割いていたとします。このとき、その労力に見合った分の報酬を真ん中の弟が受け取っていれば、寄与分は考慮されません。しかし、特別の賃金を得ていなかったときには、それまでのお店に対する尽力を加味して、寄与分を認めていくことになります。
寄与分の要件とは
寄与分として認められるためには、通常の手助けを超えた「特別な寄与」であることが必要です。
特別の寄与となる要件を、以下に挙げていきます。
・無償性
報酬が発生しない、もしくは、労務に見合わないくらい著しく報酬が低いこと
・継続性
1年以上の長期にわたる貢献であること
・専従性
貢献内容が片手間ではなく、かなり負担が大きいこと
・関係性
財産の増加、維持との因果関係が認められること
寄与分は、相続分割の協議中に、寄与分がある人が自ら主張しなければなりません。そして、相続人間の話し合いによって、寄与分が決定されます。話し合いで、決定できないこともあります。その場合には、家庭裁判所に調停の申し込みを行います。重要なのは、寄与分が客観的にあったとしても、その本人が主張しないかぎり、法的には認められないということです。
寄与分が認められるケース
民法では、寄与分が認められる4つのケースを規定しています。以下に列挙します。
労務の提供をした者
被相続人が何か事業を行っていた際に、その事業に、特定の相続人が労務を提供していた場合です。先に挙げたように、親がやっていた個人商店を息子の1人が手伝っていたようなケースです。
財務の提供をした者
被相続人に対して、生活費や医療費など財務の援助をしていた場合です。
療養看護をした者
被相続人の療養看護に従事して、特別な貢献をしていた場合です。たとえば、父親の看病で次女だけが仕事をやめて尽くしていたケースが考えられます。
その他に特別な働きをした者
上記のいずれにも該当しなかったとしても、寄与分が認められることがあります。やはりそれは、被相続人の財産の維持や増加に対して、特別な貢献をした場合です。
寄与分は相続人にのみ認められる
寄与分は、あくまで相続人のための制度であることに注意が必要です。
たとえば、事実婚である妻や、息子の妻など、現在議論はされているものの現状では相続人でない人がどれだけ被相続人の財産増加に尽力していたとしても、寄与分が認められることはありません。
初回相談は無料ですので、お気軽に相続税の専門税理士が運営する「東京 相続税相談窓口」へお問い合わせください。